2019年12月28日土曜日

[放送後記] "Star Chilid" 渡部愛女流三段を迎えて

予てから将棋とサッカーを絡めた企画をあたためていて、いつかやりたいと思っていたところに渡部愛さんの話が舞い込み、そして実現することとなった。
私はかつてサッカーに夢中だったことがある。ある悲劇 (フリューゲルス) の後は、だいぶんと熱量が下がったのだけれども、それでも年に何回かは近場のスタジアム(三ッ沢)に足を運ぶ。相棒の @mcmaruyama は松本山雅に入れ込んでいる。故郷を離れても地元のチームを応援するのは当然のこと。ことあるごとにソワソワする彼を見るのは面白い。

Jリーグ発足時のチェアマンは地元密着を優先する方針を取った。それにより、時にチームと自分の人生とをオーバーラップさせたりしながら、サッカーを生活の一部として楽しむ文化が根付いた。応援したり、何かを託したり、自分の代わりに何かを成し遂げてくれる存在として、単なるスポーツではなく、心の象徴かのように。



北海道帯広市出身の渡部愛さん。
北海道コンサドーレ札幌を応援するのは自然に見えるかもしれないが、北海道函館市出身の私からすると、「コンサドーレは札幌のチーム」という意識が強く、札幌以外の人はちょっと離れて応援するというのが普通の感覚である。なお、2016年からチーム名に北海道と冠するようになっているので、道内の雰囲気は少し変わっているかもしれない。

何を言いたいかというと「きっかけ」で人は変わるということである。放送内でも触れているとおり、最初は野月八段の誘いで棋士たちでサッカーを観戦し、徐々にその魅力にとりつかれていった。何かのタイミングでサッカーの中に何かの面白さを見出したのであり、それが一般人と同様な性質なのか、あるいは棋士という職業からくる何か違った感覚から発見したものなのか。


団体競技のサッカーと個人競技の将棋とでは、もちろん違う部分の方が多い。
サッカーのプレイヤーは絶対に自身のゲームをリアルタイムで俯瞰して観ることができない。もしサッカープレイヤーが自らプレーしながら、同時に俯瞰図も見ることができるとしたら、プレーの精度はどのぐらい上がるのだろうか?と思う。将棋は盤全体を俯瞰しゲームを進める。駒を人に見立てると、神の視点で動かすことができるし、100%自分の意思で駒を動かす。もしかしたら、サッカーの進化系は将棋なのかもしれない。

愛さんが、将棋とサッカーをどのような関係性で考えているのかの一端を、この放送で少しわかったような気がする。そして、一人のサッカーファンとして、愛さんがよりサッカーの深みにはまっていくことを歓迎しているし望んでいる。


今年の漢字は「試」を選んだ。
女流王位のタイトルを失ったものの、新しい世界も開けてきているようである。
なんとなくの私の感覚でしかないけれども、渡部愛は忙しくしている方が自分自身を見失わないような気がする。ポジショニングサッカー。状況に合わせて常に動くタイプ。いろいろなことを試して、ちょっとずつ感覚を磨いていくだろう。

Star Child とは、星間システムを結ぶ象徴。
将棋とサッカー、あるいは団体と団体。
絶妙なポジショニングでバランスを取り、試合全体をコントロールする。いずれ、そういう存在になるのかもしれないし、それが彼女の運命なのかもしれない。






(写真 @VodkaIceBerg)
(文 @totheworld)